今回はシラザン50などのガラスコーティングの化学を考えていきましょう。
シラザン50は非常に強力な撥水性と耐久性、イオンデポジットが付着しにくいという特性を持っていますが、それはなぜでしょうか。
シラザン50の特性と構造を化学的に解説すると以下のように説明が可能です。
- 撥水性→表面終端で操作
- イオンデポジット→表面終端で操作
- 撥水の耐久性→表面終端で操作
- コーティングとしての耐久性→ポリシラザンという優秀な素材
コーティングの良し悪しは素材と表面終端の2つ(ここを解説)で決まると言っても過言ではありません。
また、シラザン50含めガラスコーティング全般の硬化は以下のメカニズムで起こります。
- ポリシラザンは主にSi(ケイ素)、N(窒素)、H(水素)、有機性官能機を配合する
- Siと空気中の水分(H2O)が結合しSiO2(ガラス)になる
- その際にアンモニア(NH3)が発生
[SiH2NH]+H2O+その他→SiO2+NH3+その他
(その他は液剤に配合されている様々な成分)
いろんな成分がごちゃごちゃ入っていようが、基本はこの化学反応でガラス(SiO2)になります。
本格的な「ガラス」コーティングという点を考えると、コストを考えるとここまでお得なコーティングはありません。
筆者は国立大学院の物理学修士を取得しており、専門分野は表面物理です。
コーティングはSi基板などの処理にも利用されているため、それなりの理解があります。
シラザン50 素材の硬化と形成のメカニズム
ボディにどう定着していくかを解説します。
シラザン50は無機ポリシラザンと有機ポリシラザンのハイブリッド。
強力なコーティング剤はほぼ全てポリシラザン系です。
無機ポリシラザンの形成
シラザン50含め、ほぼ全てのガラスコーティングはこのような化学反応で硬化します。
[SiH2NH]+H2O+その他→SiO2+NH3+その他
重要なのはSi-N結合が空気中の水分と出会うとSiO2とNH3にくっつき直すという点。
これが結合するわけですが、、、
ボディに塗布すると以下のようなイメージになります。
次第にアンモニア(NH3)が揮発していくと、、、
その結果、SiO2となりガラスの構造が出来上がるわけです。
一番上のSi-O-Siの結合は、結合エネルギー(結合をバラすために必要なエネルギー)が非常に高い(C-Cより高い)ため、非常に安定しているというわけです。
有機ポリシラザンが形成
無機ポリシラザンの上層に有機ポリシラザンが形成されます。
上層に形成される仕組みは硬化速度の違いによる操作でしょう。(これも操ることができます)
結果的に以下のような被膜構造になります。
(有機無機の違いは炭素(C)を含むかどうか。)
最上部に有機被膜を形成すると、イオンデポジット(水垢)が付きにくいというメリットがあります。
これも化学的に解説することができます。
シラザン50 特性の仕組みを化学的に解説
コーティングの重要なポイントは表面終端です。(表面の性質を整えること)
これによって
- 撥水、親水の性質
- 撥水の耐久性
- 電気的性質(イオンデポジット付きやすいか)
これらコーティングとしての眼に見える重要事項が決まります。
表面終端とは?
表面終端は本記事の重要なキーワード。
表面終端とは、被膜最表面に結合する物質を統一すること。
撥水性や親水性の操作(電気的性質)や耐久性(結合の強力さ)を調整することが可能です。
例として、キーパーのフッ素ガラスコーティングがあります。
フッ素終端は非常に強力で、なかなか壊れないため強力な撥水が長期間維持できます。
撥水性は表面終端で決まる
ここは表面終端で決まります。
撥水を決める大きな要素は以下2つ。
- 電気的性質
- 最表面層の密度
表面終端が滑らかで密度が高く(水が引っかかりにくい)、水と電気的に反発するような性質であれば撥水性(コロコロ具合)が高そうとのことがなんとなくわかるでしょう。
撥水の耐久性も表面終端で決まる
コーティングとしての耐久性も重要ですが、撥水性がいつまで持続するかも重要な事項です。
- 青空駐車では撥水性が持続しない
- 気づいたら撥水性がなくなっていた
これらはふとしたときに感じますよね。
化学的にこれらを評価すると、表面終端が剥がれてしまったの一言で表すことができます。
シラザン50の表面終端は発表されていません。が、化学的な性質を加味すると-CH3や-C6H5などの有機性の終端が使われているのでは?と考えています。
その他にカルボキシ終端(-COOH)、メチル終端(-CH3)なども強力な終端として利用(基板など)されています。
シラザン50はイオンデポジットはなぜつかない?
これも表面終端です。
有機被膜にするとイオンデポジットが付きにくいのですが、、、それはなぜでしょう。
答えは、電気的な性質です。(親水疎水など様々ありますが、一言で片付けると電気です。)
イオンデポジットは空気中のミネラル(鉱物=無機質)です。
- 有機被膜は電気的にイオンデポジットと反発
- 無機被膜は電気的にイオンデポジットと吸着
このイメージで良いでしょう。
そのためシラザン50の最表面は有機質のためイオンデポジットが付きにくい設計になっています。
コーティングは化学であり、結局は電気的性質に帰着することが多いですが、磁石をと同じですのでそこまで深く考える必要はありません。
各コーティングの化学的性質
イオンデポジットの着きやすさと撥水性は別物です。
私が使ったとこがあるコーティングを簡単に部類分けするとこんなイメージ。
EXキーパーとシラザン50は有機性の皮膜を最表面に来るように設計しているため、イオンデポジットは比較的着きにくいです。
シラザン50 | EXキーパー | ハイドロフォビック | |
コーティング枠組み | ガラス | ガラス系+レジン | ガラス系 |
主成分 | ポリシラザン | ポリシラザン? | ポリシラザン |
最表面皮膜の性質 | 有機 | 有機 | 無機 |
イオンデポジット | つきにくい | つきにくい | つきやすい |
まとめ
今回はシラザン50の硬化メカニズムと素材の性質を化学的に解説しました。
- ポリシラザンは主にSi(ケイ素)、N(窒素)、H(水素)、有機性官能機を配合する
- Siと空気中の水分(H2O)が結合しSiO2(ガラス)になる
- その際にアンモニア(NH3)が発生
[SiH2NH]+H2O+その他→SiO2+NH3+その他
(その他は液剤に配合されている様々な成分)
シラザン50の特性を化学的に評価すると、以下の点で高評価です。
- 高級素材ポリシラザンを使った本格ガラスコート
- 耐久性のある表面終端(考察)
- イオンデポジットがつきにくい設計
以上を踏まえ、コストを考えるとここまでお得なコーティングはありません。
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